【なまはげ文庫】十四歳日和

なまはげ文庫
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 本の紹介コーナー『なまはげ文庫』、第7回。

 2019年夏に発売されたばかりの小説をご紹介します。
 

 
 講談社児童文学新人賞受賞作、だと思います。一応wikiで確認したのですが、受賞作は『14歳日和』とあるのでちょっと自信がない。でもおそらくこの本が受賞作のはず。

 タイトルのとおり、中学生たちが生き生きと描かれています。傑作。
 
 
 

中学生へのエール!

 著者は水野瑠見さん。おそらくこれが1作め。香川県の出身。この作品の舞台も、ひょっとしたらそのイメージなのかもしれません。
 

 それでは、おすすめポイントを◎で、いまいちなところを△で、それぞれご紹介します。
 
 

◎中学生がしっかり描けている

 中学生を扱った小説は仕事柄いろいろ読むのですが、どうしてもキャラクターが「大人びた中学生」になりがちなんです。そんな中学生いないよ、とツッコミたくなるような物語もありますし。まあしょうがないですよね、書いてるのが大人なんですから。

 しかしこの作品は違います。

 キャラクターたちひとりひとりが本から飛び出して、キャッキャッとはしゃいだり、もんもんと悩んだりと、エネルギー全開で動いているかのように私には読めたんですよねぇ。
 

 リアルかと言われれば、実際の中学校にはビックリするくらい底意地の悪いクラスメイトもいますから(オブラートに包んだ表現)、まぁ、それはホラ、小説ということで。
 
 

◎連作短編集なので中学生にも読みやすい

 舞台は田んぼと山に囲まれた、田舎の中学校。お、田舎というところに、君津市民はシンパシーを感じちゃいますな(笑)。君津に高い山はないけどさ。

 2年生のあるクラスの1年間が、情景描写をふんだんに使いながら丁寧に描かれています。

 ん、誤解を招きそうだな。

 クラスにスポットを当てているわけではありません。4話それぞれの主人公が、全員同じクラスにいるのです。ですから、別のお話の主人公が、チョイ役で顔を出したりして、話のつながりを感じるという仕掛けですね。『桐島部活やめるってよ』スタイル。

 以下、全4話のタイトルとあらすじ。
 
 

ボーダレスガール

 メインテーマは、友だちです。

 しかし、読む人によって、「いや、これは自己実現の物語だ」「私にはスクールカーストの話に思えた」「対照的なクラスメイトを通じて、自分自身を見つめるストーリー」「中学生女子にありそうなリアル系ファンタジー」などと感想が分かれるかもしれません。

 そうだとしても、この話は、間違いなくすべての女子に刺さると思います。ココロにグッサリ。

 序盤をちょっとだけ。

 あはははは。私たちの笑い声はひときわ明るく華やかに響く。周りの喧騒も、あっけなくかき消してしまうほど。こういう時、私はいつも、「日向」にいるんだなって実感する。と同時に、条件反射みたいに見てしまうんだ。「日陰」にいる、しおりのことを。

 「日向(ひなた)」「日陰」と表現されていますが、今の中高生の間では、「一軍」だの「二軍」だのという呼称もあるのだとか。おじさん、こういうお話苦手なので、ここまで読んでもう本を閉じちゃおうかと思ったよ(笑)。

 でも、途中から、キャラクターたちに「がんばれ」「がんばれ」って、応援している自分に気づきましてね。いいトシなのにね(笑)。

 4月の新クラス立ち上げから、5月の体育祭準備までの物語です。
 
 

夏色プール

 タイトルのとおり、舞台はプール。夏の物語。

 テーマは、恋。

 もうこの漢字一文字だけで、多くの中学生読者を引き寄せられそうですな。「変」じゃないですよ、「恋」ね、「恋」。

 これもおじさんの苦手な分野なのですが(笑)、いやいや最後まで読んでよかったです。夏!さわやか!ラムネ飲みたくなった(笑)!

 あるキャラクターが、こんなことをつぶやくんですよ。

 なんかさあ、人を好きになるって、けっこう厄介なんだね。
 初めて知ったよー。

 中学生のみなさんの中には、まだ恋なんて経験したことがないし、そんな気持ちになったことないし、という人もいると思います。大丈夫、このお話の主人公の少年もまさにそのタイプなので。

 読む楽しみを奪ってしまってはいけないので、詳しくは触れぬこととしよう(笑)。
 
 

十四歳エスケープ

 このお話は、全4話の中で異色作に思えました。ほとんど学校の場面が出てこないですし、また、お話自体もかなり短いんですよね。

 スマホやSNSなど、今どきのアイテムがたくさん出てきます。パンケーキとか。なんやねん、パンケーキって。ホットケーキでいいやんか。

 私のことを認めてほしい、すごいねって言われたい、チヤホヤされたい、そんな誰しもが心にそっと抱いている欲と、主人公は真正面から向き合うことになります。そして気づくのです。

 できることなら、気づきたくはなかった。
 自分が無理しちゃってる、ってこと。
 きらきらした世界をいくら作ってみせたって、そんなの、なんの意味もないってこと。

 さて、そんな彼女が見つけた「宝物」とは・・・ここまでにしときましょう(笑)。秋のお話です。
 
 

星光る

 キンモクセイの香りで始まり、3学期終業式で終わる最終話。主人公は男子。

 4月には3年生に進級する。それはつまり、もうすぐ受験生になるということ。道を行き交うわんぱくな小学生がうらやましく思えるけれど、現実として高校入試は毎日少しずつ近づいてくるわけで。いつまでも子どものままではいられない。

 主人公は、今まで積極的に関わろうとしてこなかったあるクラスメイトのことを、テスト順位で越えるべき目標として意識するようになります。

 いくつかの出来事を経て、しだいに心を通わせていく二人。やがて主人公は、こんなことを思うのでした。

 その瞬間、俺の中から百井に対する敵意や嫉妬がすうっとうすれて消えていった。くやしいけど負けたな、って思えた。ああ、俺とはまるで器がちがう、って。なのに、どうしてだろう。これほどおだやかで、晴れやかな気持ちになれたのは、ずいぶん久しぶりだったんだ。

 このあとの展開が良かったなぁ・・・。読後感最高。

 テーマは、・・・私は「自立」「子ども時代の終わりの自覚」ととらえました。これも意見が分かれそうですなぁ。

 この話ね、私に思いきり刺さりました。2人の少年のその後をイメージしながら、穏やかな気持ちで眠りに落ちていくことができましたよ。
 
 

◎中学生へのエール

 全4話に共通しているのが、さまざまなできごとにぶつかったときに、キャラクターたちが逃げることなく真正面から対峙していることです。

 だからでしょうか、全体的にカラリとした雰囲気です。

 みなまっすぐに自分自身を見つめているので、できごとを通じて変わっていく自分に気づき、そして前に前にと歩みを進めていきます。

 「変わること(=成長していくこと)を恐れないで!」という著者からのメッセージなのかなぁ、そう私は感じました。

 学校生活に居心地の悪さを感じている人も、本当に好きなことが何だったかわからなくなってしまった人も、ここのところモヤモヤとした気分を抱えていて心が晴れないなんて人も、ぜひこの本を手に取ってほしいです。

 読み終わったあと、「明日、今まであまり話したことのなかったあの子に話しかけてみようかな」なんて気持ちになっているかも。

 中学生のみなさん、

 変わることを恐れないでね。
 
 

△文庫化が待たれる

 ハードカバーで¥1,400。

 もちろんそれに見合う価値のある作品ではありますが、中学生にとっては買うにはちょっと勇気のいる値段です。

 できれば早く文庫化してほしいですな。

 中学生が本屋さんで見つけて手に取って、すぐにレジに持っていけるように。ベッドの上でゴロゴロしながら気軽に読めるように。

 講談社さん、よろしくお願いします。
 
 
 
 
 

 以上、『十四歳日和』についてご紹介しました。
 

さくらっ子
さくらっ子

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 というさくらっ子&ママンは、貸し出しますから声をかけてくださいね。

 それでは今日はこのあたりで失礼します。どうぞ健やかな一日をお過ごしください。
 
 
 

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