【なまはげ文庫】『教育格差 階層・地域・学歴』

なまはげ文庫
この記事は約5分で読めます。

 
 
 
 本の紹介コーナー『なまはげ文庫』、第5回。

 今回はちくま新書からご紹介します。
 
 

 
 
 『教育格差 階層・地域・学歴』、

 これは重たかった・・・。

 物理的にじゃなくて。内容が、重いのですな。
 
 
 

日本は緩やかな身分社会!?

 著者は松岡亮二博士、早稲田大学の准教授です。

 カバー袖にはこうあります。
 

 出身家庭と地域という本人にはどうしようもない初期条件によって子どもの最終学歴は異なり、それは収入・職業・健康など様々な格差の基盤となる。つまり日本は、「生まれ」で人生の選択肢・可能性が大きく制限される「緩やかな身分社会」なのだ。

 
 今の日本は「生まれ」で人生の選択肢・可能性が大きく制限されている、そのとおりだと思います。この事実をまっすぐ受け止めている人がどれだけいるのかな・・・。塾のおじさんの立場で思い浮かぶのは、同じ千葉県内でも都市部と内房エリアとでは教育環境がだいぶ違うぞということ。

 これはおなかに力を入れて読むべき本なのです。
 

 それでは、おすすめポイントを◎で、いまいちなところを△で、それぞれご紹介します。
 
 

◎データに基づく説得力

 ひたすらデータが並んでいますので、そりゃもう納得せざるを得ないよね、というレベルの説得力ある文が続いていきます。

 SNS上では真偽不明な情報が飛び交う昨今です。驚くような話を見かけたときやフェイクニュースかもと思ったときは、「それソース(=情報元)はどこよ?」と疑うことも大切ですよね。

 この本は、膨大なデータから読みとれることについて書かれたもの。つまり、書かれていることのソースはまさにこの本そのものということです。真偽を疑うことなく「へぇー」「なるほど」と素直に読む進めることができますよ。

 そうですね、例えばコレ。
 

 しかし、父が大卒か非大卒かの区分によって子の学歴には未だに大きな格差がある。なお、母の学歴や15歳時点の豊かさなどの別の指標を使っても「生まれ」の有利不利を表すことはでき、同じような最終学歴格差を確認できる。

 
 この文の前のページに、父が大卒か非大卒かで、その子の最終学歴がどうなるかのデータが掲載されているわけです。そういう話は耳にしていたけれど、実際にデータを見せられると「うむぅ」と低くこもった声が出てしまいます。
 
 

◎アカデミズムの香り

 アカデミズムの香り漂うなんて表現するとさすがに大げさかもしれませんが、この本を読んでいると、どことなく教育学の講義を受けているような気になれます。

 目次がこうですもん。

1.終わらない教育格差
2.幼児教育
  目に見えにくい格差のはじまり
3.小学校
  不十分な格差縮小機能
4.中学校
  「選抜」前夜の教育格差
5.高校
  間接的に「生まれ」で隔離する制度
6.凡庸な教育格差社会
  国際比較で浮かび上がる日本の特徴
7.私たちはどのような社会を生きたいのか
 

 この本をベースにして「教育格差概論」という半年くらいの講座があったとしても私は驚きませんな。レポート提出は7回程度かな(笑)。
 
 

◎目の覚める内容

 その分野に詳しい人間からすればもはや常識のようなことであっても、あまり話題にはしたくないようなこと・話題にすべきでないと判断するようなことってありますよね。

 私のように教育分野に長い人間にもそれはあてはまります。ブログでそういったデリケートな話題を扱わざるを得ないときには、やはり大変に緊張するものです。

 この本は、そういうデリケートな話題に真正面から向き合っています。また目次にふれてしまいますが、「第1章 終わらない教育格差」は5節でできており、順に「親の学歴と子の学歴」「出身地域による学歴格差」「意識格差」「階層と不利な状況の打破」「時代を超えて確認される格差構造」となっています。ね?目が覚める内容でしょう?

 三大都市圏出身者の大卒割合は高いことをデータで示したあとに、著者は次のように述べています。
 

 近隣住民の大卒者割合に大きな差があり、その差が近年において拡大していることは、義務教育段階で公立学校を学習指導要領や財政支援などで全国的に標準化しても是正できない広い意味の教育環境格差の存在とその拡大を意味する。大学進学を規範とする空間で育つ児童・生徒がいる一方、そのような教育環境にない児童・生徒がいるのだ。また、住民の大卒者割合によって、公立学校に対する期待や学習塾など教育サービスへのアクセスのしやすさも異なるだろう。

 
 こういった話題は友人知人との会話には出にくいですし(意識高い系などと揶揄されそう)、SNS上でもあまり見かけません(攻撃の対象になりやすいですからね)。本は古いメディアになりましたが、デリケートな話題を掘り下げるには、いまだになくてはならないものだと言えましょう。
 
 

△心穏やかには読めない

 私の両親はどちらも大卒ではありません。亡父は夜間高校出身でしたし。

 何の話かと言いますと、データの多くに「親大卒者数」というワードがあるんですよ。「親大卒者数が0(=両親ともに大卒ではない)」「1(=どちらかが大卒)」「2(=どちらも大卒)」ってな具合。この「親大卒者数」は、子どもの教育にとっての大きな要素、それは理解しているつもりですが、・・・。

 読んでいて、あまり心穏やかにはなれませんでした。完全に個人的な事情ですな(笑)。

 ただ、週刊誌の編集者に耳目を集めるようなショッキングな内容の記事を書いてくれと頼まれたようなゴシップものではありません。あくまでも専門家による現在の日本の教育の分析本です。読む際は、そのあたりも踏まえてお願いします。
 
 
 
 
 

 以上、『教育格差 階層・地域・学歴』についてご紹介しました。
 

ママン
ママン

ちょっと気になるかも

 
 というママン(&さくらっ子)、貸し出しますから声をかけてくださいね。

 それでは今日はこのあたりで失礼します。
 
 
 

この記事についてのコメント

タイトルとURLをコピーしました